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長野地方裁判所 平成11年(行ウ)5号 判決 2000年6月23日

原告

荻原敏孝

右訴訟代理人弁護士

飯原一乗

高橋伸二

被告

佐久税務署長 青木優

右指定代理人

小原一人

赤池昭光

服部重雄

宮澤憲司

降籏元

吉村正志

渡邊雅行

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成七年二月六日付けで原告に対してなした相続税にかかる重加算税賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

一  事案の概要及び争点

本件は、原告の兄である亡荻原孝一(以下「被相続人」という。)の死亡による相続(以下「本件相続」という。)にかかる相続税について被告が平成七年二月六日付けでなした重加算税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)は、国税通則法六八条一項所定の重加算税の課税要件たる「隠ぺい又は仮装」が存しないのに、これを存するものとしてなした違法な処分である旨主張して、本件処分の取消しを求める事案である。これに対し、被告は、相続財産のうち被相続人名義の預金について隠ぺいがあったとして本件処分は適法である旨主張する。

したがって、本件の争点は、原告が、被相続人名義の預金を隠ぺいした事実があったか否かである。

二  判断の前提となる事実

1  本件処分に至る経緯

(一) 亡荻原馬吉(以下「馬吉」という。)は、平成二年一二月五日に死亡し、馬吉の子である被相続人(長男)、土屋一枝(長女、以下「一枝」という。)、高木延枝(二女、以下「延枝」という。)原告(三男)及び荻原直枝(三女、以下「直枝」という。)の五名が共同相続人となった。

(二) 被相続人は、平成三年一一月二〇日に死亡し、被相続人の兄弟姉妹である一枝、延枝、原告及び直枝の四名が共同相続人となった。

(三) 平成四年五月二二日、本件相続にかかる相続税の申告書が佐久税務署に提出された。右申告書には、直枝が相続人代表として、長年馬吉や荻原一家の税務顧問をしていた星武典税理士(以下「星」という。)に相続税の申告にかかる一切の件を委任する旨の委任状が添付されており、原告分の納付すべき税額が三二九六万九一〇〇円とされていた。

(四) 平成五年一月二六日、関東信越国税局の職員が、長野県北佐久郡御代田町の馬吉の生前の住所地(以下「御代田の本宅」という。)に臨場して本件相続税に関する調査を実施し、原告は、同年六月一日、被告に対して納付すべき税額を五億二四八二万一二〇〇円とする本件相続税の修正申告を行い、同七年二月六日、被告は原告に対して本件処分を行った。

(五) 平成七年三月二八日、直枝は相続税法違反で起訴され、懲役一年六月及び罰金七〇〇〇万円の刑が確定した。

2  本件処分の金額及び計算根拠

(一) 重加算税の基礎となる金額 二億八六三三万円

本件修正申告により増加した納付すべき税額四億九一八五万二一〇〇円から、右納付すべき税額のうち長野商銀信用組合東部町支店の普通預金一七一万八〇〇三円、定期預金二口で合計一五億〇一五四万一二二八円(以下あわせて「本件各預金」という。)、未収利息二七六万四四八二円及び本件各預金の原資となった借入金支払利息七二三〇万一三七〇円がなかった場合の税額二億〇五五一万八一〇〇円を控除した額(国税通則法一一八条三項の規定に基づき一万円未満の端数切り捨て後のもの)である。

(二) 重加算税の額 一億〇〇二一万五五〇〇円

国税通則法六八条一項の規定に基づき右(一)の金額に一〇〇分の三五の割合を乗じて算出した金額である。

3  本件処分及びその後の不服申立ての経緯は別表一のとおりである。

三  争点に関する当事者の主張

1  被告

(一) 「隠ぺい又は仮装」の意義

国税通則法六八条一項の「隠ぺい又は仮装」の意義についてはもっぱら解釈の問題とされているが、取引状況などの所得を基礎付ける事実を隠ぺい又は仮装するなど申告納税制度の趣旨を没却する行為をいうものと解され、「隠ぺい」とは、納税の基礎となる事実を隠匿しその存在を不明にすることであり、「仮装」とは虚構の事実を付加し納税の基礎となる事実が存在することを装うことである。

具体的に、いかなる行為が「隠ぺい又は仮装」に当たるかについては、国税通則法六八条の文言、同条の立法趣旨を考慮し、それらの行為の前後における事実関係を総合して判断されるべきであり、納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額をことさら過少にした内容虚偽の申告書を提出した場合は、事実の隠ぺいに該当するし、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の付加要件が満たされ、積極的な行為がなくても課税要件を充足しうる。

そして、納税者は、自己の判断と責任において、納税申告手続を第三者に委ね、納税者に代わって行わせることが許されるものであるが、自らの判断と責任において第三者を選任し、申告手続を委任した以上、第三者が納税者に代わって行った申告行為は、納税者が行ったと同様に扱われるものであるから、これに付随する重加算税の責任も、納税者が不適正な申告について認識していたか否かにかかわらず、当然負うべきものと解すべきである。

(二) 本件における隠ぺい行為

(1) 直枝への委任行為

本件相続税の申告手続について、原告及び一枝は、直枝が財産の管理について詳しく、知識もあり、被相続人の財産についてある程度把握していたことから、申告手続を直枝に委任し、この委任を受けた直枝は、自己の外原告及び一枝の三名の相続人代表として取りまとめ役となり、申告書作成のための資料を集め、本件申告書の作成だけを委任しておいた星に資料を提供した。

(2) 直枝の隠ぺい行為

直枝は、自ら預金証書を預かったり、長野商銀から残高証明書を受け取ったりして、遅くとも平成四年五月には本件各預金の存在を具体的に認識していた。

直枝は、平成四年五月六日、右三名の相続人代表として星に本件申告書の作成を依頼する旨の委任状に署名し、星の事務所に勤務する栗田のぶ子税理士(以下「栗田」という。)に委任状を手渡した。同月一一日から一五日の間に、直枝は本件相続にかかる税額の試算を栗田に依頼したが、栗田は本件各預金及びその原資である借入金の存在を知らなかったことから、これらを含めず計算をし、直枝に試算による税額を告げた。直枝は、右税額が多額であったことから、二六億円の借入金債務を計上して試算するよう依頼し、栗田は右債務額を計上の上、直枝に税額を伝えた。その後、栗田は、直枝及び星に依頼され、相続財産一二億八〇〇〇万円を加えて試算した税額を伝えたが、その際、直枝及び星は、右相続財産に関する残高証明書の存否を確認した栗田に対し、「それはいいです。」と答え、本件各預金の存在を秘匿した。

栗田は、平成四年五月一九日、右借入金を債務として計上する一方、本件各預金は相続財産に計上せずに本件申告書を作成し、原告、一枝及び直枝は佐久税務署に相続税の申告書を共同して提出した。

(3) 原告の認識

原告は、被相続人死亡の翌日ころ、八十二銀行御代田支店の支店長神田友夫(以下「神田」という。)から、朝鮮系の銀行に定期預金があるはずだという話を聞き及び、平成三年一二月ころには、被相続人の遺産の調査をしていた高橋伸二弁護士(以下「高橋」という。)から、朝鮮系の銀行とは長野商銀のことで、本件各預金の金額が約一五億円であることを聞いており、さらに、他の相続人に対して本件各預金を八十二銀行に移すことを打診していた事実からみても、本件相続税の申告期限前には本件各預金の存在及び本件各預金が被相続人の相続財産であることを認識していたことは明らかである。

(4) まとめ

右のとおり、原告は、自らの判断と責任において直枝に本件申告手続を依頼しており、直枝は、本件各預金の存在を知っていながら本件申告に際して隠ぺい行為を行ったものであるから、原告は、本件申告に付随する重加算税の責任を当然負うべきものである。また、仮に、原告が星に直接申告手続を委任したとしても、原告は、直枝に本件申告手続の取りまとめ役をさせ、申告書を共同で提出したのであるから、直枝及び星の隠ぺいによって生じた重加算税の責任は、原告が負うべきである。原告は、本件各預金の存在を認識していて、自ら申告手続が適正に行われているかどうかについての確認をするのは可能であるのに、それをしていないのであり、重加算税の責任を負ったとしても決して不当とはいえない。

2  原告

(一) 「隠ぺい又は仮装」の意義

隠ぺい又は仮装に該当するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい又は仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がなされることを要するものであるとされ、また、当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からうかがいうる特段の行動をした場合も、重加算税の課税要件が充たされるとされる。

そして、第三者を代理人として申告を行った場合、仮に代理人が隠ぺいを行ったとしても、ただちに重加算税の賦課が可能というわけではなく、本人に隠ぺいの意図がない限り重加算税を賦課されるべきではない。

(二) 本件における隠ぺい行為及び隠ぺいの意図

(1) 本件における代理行為と隠匿

原告は、本件相続税申告に関する手続の一切を星に直接委任したものであり、直枝に対しては本件相続税に関する申告に必要な資料を収集して、それを原告が申告を委任した星に提出することを委ねたに過ぎない。被告がいうような、申告書の作成のみを相続人代表の直枝が星に委付し、申告手続そのものは直枝が他の相続人の委任を受けて行ったというのは、法律上も考えられず、事実に反する。

そして、申告書の作成に際して、直枝が栗田に対して本件各預金の存在を秘匿したことがあるとしても、直接委任した星が本件各預金の存在を知っているのであるから、直枝の右秘匿によっても本件各預金の不申告が確定的になったものとはいえず、本件における隠匿行為はむしろ、星が本件各預金の存在を知りながら、それを計上しない申告書を作成し提出した行為をいうと解すべきである。

確かに、原告は、申告期限前に本件各預金の存在を知っていたが、星もその存在を知っていることについても認識していたのであって、そのような状況の中で、専門家であり公認会計士の資格も有している星が預金を隠ぺいすると想像することは困難であり、また、税金に関しては素人である原告が、専門家である星を監視、監督することは著しく困難といわなければならない。

(2) 原告に隠ぺいの意図はなく、また、申告手続については、一切を星に任せていたのであって、原告自身が申告の内容を知ったのは申告書の写しの交付を受けた平成五年春以降であるから、原告自身に隠ぺいと評価すべき行為は存在しない。

第三争点についての当裁判所の判断

一  隠ぺい又は仮装の意義

国税通則法六八条一項において、重加算税は「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎になるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に賦課することができると規定されている。

そして、その「隠ぺい」又は「仮装」とほ、単に認識をもって過少申告をするのみでは足りず、「過少申告行為そのものとは別に隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がなされたことを要する」が、「架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合」すなわち、「殊更の過少申告」をした場合には、「重加算税の賦課要件が満たされる」と解すべきである(最高裁判所第二小法廷平成七年四月二八日判決、最高裁判所第三小法廷平成六年一一月二二日判決参照)。

そして、納税者が自らの判断と責任において第三者を選任し、申告手続を委任した場合には、第三者が納税者に代わって行った申告行為は、納税者が行ったと同様に扱われるものであるから、これに付随する重加算税の責任も、納税者が不適正な申告について認識していたか否かにかかわらず、当然負うべきものと解される(最高裁判所第一小法廷平成五年六月一〇日判決、右の原審大阪高裁平成三年八月八日判決参照)。

二  本件申告における委任の状況

1  証拠(甲第五号証、第七号証の一及び二、第一〇号証、第一一号証、第一八号証、乙第一号証ないし第九号証、第一一号証ないし第一八号証並びに原告本人尋問の結果)によれば以下の事実が認められる。

(一) 馬吉にかかる相続税の申告手続は、馬吉の法律顧問であった高橋が遺産の調査をし、相続人から依頼を受けた星が申告手続を行った。

(二) 原告は、被相続人にかかる本件相続税の申告も、当然、前同様、高橋が遺産の調査をし、星が依頼を受けて申告するものと考えており、遺産分割を巡って対立していた延枝を除くその余の相続人の中には、誰もこれを否定する者はいなかった。原告は、直枝が被相続人の遺産や相続税申告に必要な資料を管理しており、延枝を除く三人の相続人のうち、直枝が最も財産管理に関する知識を有していたことから、申告のための具体的な手続として、直枝が三人の相続人を代表して申告のために今後更に必要な資料を収集したり、星に申告手続を依頼することになるものと考えていたものであり、直枝に対し、とりたてて明示的に、右のことを委任する旨伝えたことはなかったものの、改めてそのような行動に出なくても、原告を含む三人の相続人の間においては、当然に、直枝が相続人を代表して資料収集等の準備行為をし、星に申告手続を依頼するなどの必要な行為をするものとの暗黙の了解があった。

(三) 直枝は、平成四年五月六日、一枝、原告及び直枝三人の相続人の代表として、星に「被相続人荻原孝一の相続税の申告に係る一切の件」を依頼する旨の委任状に、「相続人代表荻原直枝」と署名した上、星の事務所に勤務する栗田に右委任状を手渡した。

(四) 直枝は、平成四年五月二〇日、前日に栗田が記入し、作成税理士の欄に星の記名印がされた申告書に、原告を含む三人の相続人の代表として押印し、右申告書は栗田により佐久税務署に郵送で提出された。提出された申告書には、前記(三)で作成された委任状が添付されていた。

2  以上の認定事実によれば、本件において、原告が直枝に対し、資料収集等の準備行為や申告手続を星に依頼することなどの、申告に関して必要な一切の行為について、暗黙のうちながら委任し、直枝が右委任に従って、相続人三名の代表として星に対し相続税の申告にかかる一切の件を委任したと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

この点に関し、原告は、直枝に対して委任したことはなく、直接星に申告事務の一切を委任したものであると主張し、原告本人尋問の結果によれば、被相続人死亡直後の平成三年一二月に、原告を含む三人が星に対し、「相続税の申告をまた馬吉のようにお願いします」と話した事実が認められる。しかしながら、その会話の時期や、前記のように、平成四年五月六日に直枝が「相続人代表荻原直枝」と署名した委任状を手渡した以外、原告自身が星に対し委任状を渡した事実がないことなどに照らすと、右の会話は、将来申告手続を依頼した場合にはよろしくという、いわば挨拶程度のものに過ぎず、右の会話により原告と星との間で委任契約が成立したとまで認めるのは困難である。

なお、被告は、直枝は星に対して申告書の作成をのみ依頼したもので、実際に申告をしたのは直枝である旨を主張するが、右委任状の記載内容や、直枝が星に作成のみに限定して依頼をするのは不自然と思われることによれば、前認定のとおり、直枝は、星に対し、申告書の作成のみならず、申告事務一切を委任したとみるべきである。

三  直枝による隠ぺい行為

1  前記各証拠によれば以下の事実が認められる。

(一) 被相続人は、平成三年六月ころ、ミサワホーム等との間で共同事業協定を締結し、右協定に基づきミサワホームから二六億円を借り入れ、被相続人名義の本件各預金を有することとなったものであるが、直枝は同年八月ころ、右の契約内容や本件各預金の存在について神田から説明を受けた。

(二) 直枝は、平成三年一一月二一日の通夜の際、被相続人の知人であった神田英機から本件各預金にかかる預金証書を手渡され、また、同年一二月二日ころ、高橋の事務所での相続問題等に関する会議の際、預金に関する具体的な申告方法について説明を受け、さらに、そのころ、神田から再度本件各預金の存在について説明を受けるなどして、本件各預金の存在及び本件各預金が相続財産を更正することを認識した。

(三) 直枝は、その後、本件各預金が相続財産を構成することを知っていた原告から、本件各預金を八十二銀行に移すことの相談を受け、平成四年四月三日には、長野商銀に発行を依頼して残高証明書を受け取り、記載内容を確認後これを星に手渡した。

(四) 直枝は、前記のとおり、平成四年五月六日、相続人代表として署名した委任状を栗田を介して星に渡し、同月一一日から一五日の間に、本件相続に係る税額の試算を栗田に依頼したが、栗田は本件各預金及びその原資である借入金の存在を知らなかったことから、これらを含めず計算をし、直枝に試算による税額を告げた。直枝は、右税額が多額であることに驚き、二六億円の借入金債務を計上して試算するよう依頼し、栗田は右債務額を計上の上、直枝に税額を伝えた。その後、栗田は、直枝又は星に依頼され、相続財産一二億八〇〇〇万円を加えて試算した税額を伝えたが、その際、直枝は、右相続財産に関する残高証明書の存否を確認した栗田に対し、「それはいいです。」と答え、残高証明書及び本件各預金の存在を秘匿した。

(五) 栗田は、平成四年五月一九日、右借入金を債務として計上する一方、本件各預金は相続財産に計上せずに本件申告書を作成し、星に作成税理士欄への押印、直枝に三名の相続人欄への押印をさせ、佐久税務署に郵送してこれを提出した。

2  以上の認定事実によれば、直枝の行為が国税通則法六八条一項の隠ぺいに当たることは明らかである。なお、星は本件各預金が存在するのにこれを本件申告書に計上していないことを知っていたが、このことは、右認定を左右するものではない。

四  原告の責任

以上に述べたとおり、原告は直枝に対し、本件相続税の申告に関する資料収集等の準備行為や星への申告手続の依頼等の申告に必要な行為を委任し、原告を含む相続人代表者の直枝から申告に関する一切の依頼を受けた星が、栗田を介して本件申告書を提出したところ、直枝が栗田に対して本件各預金の存在を隠匿したため、過少申告となったものであって、直枝が本件申告に際し隠ぺい行為を行ったことを認めることができる。

そして、納税者が自らの判断と責任において第三者を選任し、第三者が納税者に代わって行った申告行為は、納税者が行ったと同様に扱われるものであるから、これに付随する重加算税の責任も、納税者が不適正な申告について認識していたか否かにかかわらず、当然負うべきものであるから、原告も、その認識の有無や隠ぺいの意図の存否にかかわらず、直枝の隠ぺい行為の結果を当然負うべきものであり、原告においても隠ぺいが存したというべきである。

原告は、この点に関し、具体的な隠ぺい行為を行ったのは直枝ではなく星であり、専門家である税理士が隠ぺいを行った場合には委任者が監視監督をするのは現実的でない以上、重加算税の負担を負わせるべきではない旨主張する。しかしながら、前認定のとおり、本件において具体的な隠ぺい行為を行ったのは直枝であると認められるし、また、仮に、専門家である星が隠ぺいを行った場合であっても、本件各預金が計上されているか否かは申告書の附属明細書を見れば容易に判断することができ、税務に関する知識は格別必要がないことであるし、原告は星が本件申告を依頼されていることを知っていたのであるから、事前に申告書の記載内容を確認するなどして隠ぺいが行われないようにすることは十分可能であったというべきである。さらに、原告が主張するように、仮に、原告と星との間に委任契約が成立していた場合であっても、この理に変わりはない。いずれにしても、原告は本件重加算税の責任を負うべきことになる。

第四結論

よって、本件処分は適法であり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤公美 裁判官 廣澤諭 裁判官針塚遵は転補のため署名することができない。裁判長裁判官 佐藤公美)

別表一 本件課税等の経緯

<省略>

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